3rdシングル収録『まさか 偶然…』を歌うのは富田鈴花さんと松田好花さん。
アニメーションのエンディングを思わせるようなサウンドの『まさか 偶然…』。
この曲を歌うのは富田鈴花さんと松田好花さんです(はなちゃんず)。
3拍子のしっとりしたメロディーに乗せて、語り手の男の子は終わった恋を思います。

A~A~B~C(サビ)
道路の工事で
渋滞し始めた
いつもの246
もうすぐ春が来ると
教えてくれてるみたいで…あれから一年か
もう会いたくなる
時間(とき)の過ぎ方 あやふやで
長くて短い骨董通り 曲がったら
まさか 偶然君のコートによく似ていた
深緑と茶色のタータンチェック
人混みの中でハッとしたのは
忘れられないあの恋日向坂46 『まさか 偶然…』
冒頭のAメロ。工事で渋滞している246号線が語り手の目に映ります。毎年、年度終わりに工事が多くなってこの道は渋滞しているのでしょうか、その光景は語り手にとって春の訪れを知らせるようなものになっています。
春が来るということはどういうことか。語り手にとってそれは、「君」とお別れをしてもう1年になるということのようです。
BメロとCメロ(サビ)。日常の中で出くわした「君」の記憶。「深緑と茶色のタータンチェック」は「君」のイメージを語り手に思い出させる以上に、「ハッとした」「曲がったらまさか」などの表現から、「君」と見紛うほどの効果を持ったと言えます。そのコートを認めた瞬間。「君」のこと。「君」があのコートを着て一緒に歩いた道。「君」が言った言葉。そんな記憶がフラッシュバックしてきます。
換喩表現
この曲の肝になっている「深緑と茶色のタータンチェック」という表現。これは柄を指しているのではなく、この柄のコートを指しています。
A
桜はまだまだか
風は冷たいな
いつか僕たちが歩いた道を
今は一人で…日向坂46 『まさか 偶然…』
1番のサビ終わり後のメロディーのようでもありながら2番のAメロのようにも機能している部分です。この後ブリッジを経て改めてAメロがありますが、何度も聞いていくと2番のAメロにも聞こえてきます。
この効果はサビの最後が終止ではなく後ろのAメロにつながっていること(メロディーはレの音で終わる)やAメロが最後に終止で終わることが生んでいます。
実は2回目のサビの後にも、転調後大サビの後にも同様に後奏Aメロが登場します。この曲はサビを挟み込むAメロの使われ方が独特の浮遊感を生んでいるように感じさせます。
そのため意図的に1番、2番の表記をやめました。
A~B~C(サビ)~A
どこかのショップに
君がいるようで…
いつもチラリと中を見て
歩いているんだばったりなんて期待して…
まさか あれは…君のコートによく似ていた
深緑と茶色のタータンチェック
人混みの中でハッとしたのは
忘れられないあの恋奇跡は起きないと
わかっているのに
僕はいつだって この道順
選んでしまう日向坂46 『まさか 偶然…』
「君」を忘れられない語り手は、通りすがりのショップの中を覗き、ばったり、偶然、「君」に会えることをどこかで願っています。「どこかのショップ」という表現は、「君」の様子が具体的に浮かび上がって来るのに全くつかめない、という個人的なお気に入りの表現です。
2回目のサビもことばは変わりません。循環型の楽曲ではよくあるパターンで、何度も聴き手が噛み締めたいサビや、他の部分の効果で意味が少し変わる場合にこのような構成になります。
「奇跡は起きないとわかっているのに僕はいつだってこの道順選んでしまう」の「道順」という表現は、「君」の影を求めてエピソードのある街並みを歩いてしまうという意味を伝えます。
同時に1度の恋愛を長く引きずりすぎてしまうという語り手のタイプを匂わせることになってもいますが、あくまでもそれは副次的なイメージです。
D
忘れたつもりでも忘れてない
君との思い出に足が向く日向坂46 『まさか 偶然…』
「忘れたつもりでも忘れてない」。お別れしてから、「君」のことを懸命に忘れよう忘れようとしてきました。そして意識の中では吹っ切れたような気がしていました。しかし”忘れていない自分”の存在が「深緑と茶色のタータンチェック」のコートに「君」の影をフラッシュバックさせたという事実から語り手に再確認されます。
なんとはなしに「君」のことを思い出し、ばったり会ったりしないか、とか思ってみたり。それは”忘れていない自分”の表出です。文脈的に、これらの行動・思考はサビに描かれた場面の前から行われていたと考えられます。それが意識的か無意識かは別として。
C~A
だけどやっぱり人違いで
そうだったらいいと思い込んでた
ドキドキしただけで嬉しかったよ
いつか会いたいあの恋コートのシーズンが
終わってしまえば
ハッとするような記憶なんて
クローゼットの中日向坂46 『まさか 偶然…』
転調後サビの歌詞は変わります。「深緑と茶色のタータンチェック」に身を包んだ影は「君」だったのか。語り手にはわかりませんでした。
しかし、人違いだったらいい、きっと人違いだった、と結論づけています。女々しく片思いを続ける語り手にとって、「君」にばったり会うということは、嬉しいことでありつつ、また現実を知ることです。
99%ごめんなさいされる告白の返事は楽しみでありつつ、絶対に聞きたくない。そんな状況に語り手は身を置いているのでしょう。「君」の断片を見つけて、ハッとしたという胸の高まりだけで胸の内のある「君」への思いを反芻し、思い出し、恋しく思うという営みに慣れ、満足しています。「君」に会うことはそこから無理やり引っ張り出されることに他なりません。
「君」を思い出させるコートの季節は終わりを告げようとしています。「君」の思い出は”クローゼット”にしまわれ、忘れられるのでしょう。それでもまた冬、コートの季節になったら、246号線が渋滞しだしたら、「君」をエピソードとともに思い出すのかもしれません。
物語は季節情報から美しくまとめられます。
191003 公開
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